韓国ドラマ『六龍が飛ぶ』(2015年)その1 鄭道伝の民本思想
ドラマ『六龍が飛ぶ』(육룡이 나르샤)は、
1300年代後半から1400年頃にかけての
李氏朝鮮王朝建国に携わった英雄たちの
物語である。すっごく面白い。
子供から大人まで楽しめる内容になっている。
ドラマ原題に使われている「나르샤」は、
ただ単に「飛ぶ」という意味ではなくて、
「飛んでほしい」という願望が込められた
活用形(語尾)だ。したがって、
『六龍よ、羽ばたけ!』
というような意味合いのタイトルだと言える。
このドラマの実質上の主人公は、
「三峰(サムボン)先生」と呼ばれている
鄭道伝(チョン・ドジョン)だ。
鄭道伝は、1342年~1398年に実在した
思想家(儒学者)、文官、革命家、政治家。
約500年続いた高麗王朝を倒し、
その後約500年続く李氏朝鮮王朝の基盤を
実質的に作り上げた偉人だと評価できる。
「朝鮮」という国名(国号)を提案したのも
鄭道伝だ。
◎ 鄭道伝の民本思想
「民本」というのは、”民を大切にする”
という発想であり、紀元前500年頃に
儒学の思想を立ち上げた孔子の発想の中に
既に見られてる。
鄭道伝は、孔子の教えを継ぐ儒学者であり
「民本」の思想を第一に掲げているのは
至極当然であると言える。
民本思想と民主主義とは異なる内容だ。
「民本思想」というのは、為政者である君主が
民(庶民や国民)のことを”大切に思いやる”
ということを意味しているが、それは
民に政治の実権を与えるという意味ではない。
国家の主権が君主にあることを前提にしつつ
民の生活を第一に考えるべきだという意味だ。
これに対して、「民主主義」というのは、
庶民が政治の実権(投票権)をもって
政治に関与することを意味している。
ドラマ中の鄭道伝は、「いつか遠い未来に
民が王様に選ばれる時代が来るかもしれないが、
目下のところ時期尚早だ」と言っている。
「民は農業や手工業など生産に携わる階級であり、
政治の行く末のことを考える余裕と能力はない。」
「国の政治については、儒学を学び徳を積んだ
士大夫(サデブ、사대부)が担うべきだ」
と鄭道伝は考えていた。
◎ 鄭道伝の臣権政治論
この「士大夫(サデブ、사대부)」は、
ソクラテスやプラトンが言うところの「哲人」
とほぼ同じだろうと思う。
ソクラテスやプラトンは、哲人による政治こそが
理想であり、民が直接政治に関与する政治形態
=民主主義のことを「衆愚制」と呼んでいた。
民が多数決で政治の行く末を決すると、
愚かな結論を導く恐れがある。それよりも
哲学を学び徳を積んだ哲人が全体の最大利益を
実現するように政治を行うべきだ、
という考えだ。
そして、鄭道伝の思想の根底には、
ソクラテスやプラトンが言うところの
哲人政治とほぼ同じ内容が垣間見られるのだ。
鄭道伝は、ソクラテス・プラトンの哲学についても
書物で読んで勉強していたのではないかな。
「士大夫(サデブ、사대부)」出身の宰相が
王から特命を受ける形で期間限定で
目下の政治課題に取り組むことになる。
もちろん宰相の地位は世襲しない。
王は宰相を任命することことで
宰相の政治権力へ”正当性の根拠”を与えることになる。