韓国ドラマ『六龍が飛ぶ』(2015年)その2 鄭道伝の権力分立論

 ◎ 朝鮮経国大典と大明律


三峰(サムボン)先生」と呼ばれていた

鄭道伝(チョン・ドジョン)は、

孔子や孟子などを専門的に勉強した儒学者

なのだけれども、他方で「法家」についても

深く勉強していたようだ。

そして朝鮮という新国を立ち上げるにあたって

国の根幹となる法律についても立案している。

それが『朝鮮経国大典』だ。これは、

①吏典(吏治)、②戸典(戸口・財政)、

③礼典(儀礼・外交・科挙)、④兵典(軍事)、

⑤刑典(刑罰・裁判)、⑥工典(土木・工匠)

の六典で構成されていた。


私個人としては、⑤刑典(刑罰・裁判)の

部分に非常に関心がある。

西洋のことばかり気にしている日本では

いまだ十分には研究されていないようだ。

そもそも日本国内では、『朝鮮経国大典』を

所蔵している図書館が殆どない。

私が住んでいるド田舎県の公共図書館では

1冊も所蔵していないことが判明したw。

国会図書館と東京・京都の大学図書館で

所蔵していることが分かった。

手に取って読むことが困難だ。

しかし国会図書館がデジタル資料化して

無料公開していることに気が付いた。

便利な時代になったものだ。

経国大典(国立国会図書館デジタルコレクション)

⑤『刑典(刑罰・裁判)』の部分を見てみると、

私が想像していたモノとはかけ離れていた。

これは刑罰法規という感じのシロモノではないw。


朝鮮時代を扱った歴史ドラマを観ている人ならば

よくご存じのはずだが、当時の朝鮮は

中国(明や清)の「属国」という位置づけだった。

朝鮮の王位継承や世子、王妃の就任については

中国皇帝の了承が必要だった。そして

法律については中国法を適用することになっていた。

『大明律』という法律を借りていたことになる。

『朝鮮経国大典』は、中国の『大明律』を朝鮮で

施行する上での細則規定、あるいは特別法

という位置づけになる。


『大明律』についても、国会図書館がデジタル資料化し、

無料公開してくれている。

大明律(国立国家図書館デジタルコレクション)

ちょっと見てみたのだが、これも現代刑法とは、

かなり違うかなぁ~?


◎ 鄭道伝の権力分立論


鄭道伝は、成均館で学びそして教官をしていた

正当な儒学者だ。

しかし政治制度についても十分に研究していたようだ。

鄭道伝は、法政策企画の天才と言える。

朝鮮歴史ドラマを観ていると、

いろんな部署が登場してくるのだが、

その国家機構の仕組みの基本を立案したのも

まさしく鄭道伝だ。


このドラマ『六龍が飛ぶ』の中では、

山奥の崖っぷちに洞窟があり、

その小さな洞窟の中で

朝鮮という国の根本部分が構想されていた

ということになっている。


『朝鮮経国大典』の①吏典(吏治)の部分

を見てみると、

鄭道伝の発想の中に権力分立という考えが

はっきりと浮かび上がっている。

沢山の政治部署を作って互いに牽制仕合せ、

間違いを正していく仕組みだ。

ドラマの中の鄭道伝の言葉によれば、

「人間の猜疑心と嫉妬心までをも利用して、

国家運営が正しく行われるようにする」

ということだ。


トーマス・ジェファーソンによれば、

権力分立の根本的な機能要因は”猜疑心”である

とされている。つまり・・・、

高麗末期すなわち1300年代後半の時代に、

鄭道伝によって既に権力分立論が構想されていた

ということになる。これは・・・驚くべきことだ。

三権分立を考えたのはモンテスキュー

と言われているのだが、

そのモンテスキューよりも300年ほど早い。


鄭道伝(チョン・ドジョン)は、

東洋の法制史・法思想史においてだけでなく、

世界の法制史・法思想史を考察する上でも、

必ず触れられるべき内容を持っている

と評価できる。



 歴史ドラマ・映画研究 観賞備忘録 index