BBC制作ドラマ『レ・ミゼラブル』Les Misérables(2018年) ~ その1 刑事手続法不備 の時代

 [N・Sさんwrote:]

レ・ミゼラブル第1話を見ました。

この先どうなるのかは分かりません。



N・Sさん...

ここで『レ・ミゼラブル』の第1話について、

復習しておいたほうが良いでしょう。


囚人として石窟作業(刑務作業)を行っている大男が、

このドラマの主人公ジャン・バルジャンです。

『レ・ミゼラブル』は、『ジャン・バルジャン物語』

と呼ばれる場合もあります。


囚人たちが奴隷のように扱われていますね。

作業中の事故で死亡した人も沢山いるでしょう。

囚人は人間ではない、という扱いでしたww。


◎ ナポレオン失脚後のフランス


ナポレオンは、もともと軍人だったのですが、

軍隊という権力を掌握し、民意を代表して、

王政・貴族政を廃したのです。

ところが・・・、

ナポレオン自ら「皇帝」を名乗り出しますw。

やがて、ロシアとの戦いで大負けしてしまい、

政治的求心力を急速に失い、

王政復古を望む貴族たちによって、

ナポレオンは捕らえられ、島に幽閉されます。

ルイ18世が即位したのですが、

民衆の不満を買います。

ナポレオンは島を抜け出し、

再び皇帝の地位に返り咲きます。

が、ワーテルローの戦いにおいて、

王政軍と戦い、そして完敗します。

再び王政に戻ったわけです。

ドラマは、この時点からスタートします。


◎ 微罪処分や起訴猶予処分


ジャン・バルジャンは、

パン1個を盗んだ罪(窃盗罪)で服役してました。

しかも、19年もw。

これって、現代ではありえないことです。

現代では、警備な犯罪については、

警察署(署長)の裁量扱いとなり、

検察のほうへは送検されません。

これは「微罪処分」と呼ばれております。

こういう微罪の特例措置が

当時のフランスにはまだなかったのですねぇ~。


現代では、仮に微罪が検察へ送られた場合にも、

検察官が起訴猶予処分にすることもできます。

裁判にしないのです。


さらに、仮に裁判所へ起訴されて

裁判が始まったとしても、

軽微な犯罪については、裁判官のほうで、

「違法性(侵害性)の程度が小さい」

ということで、無罪あるいは軽微な量刑

で済みますし、起訴猶予にする

ということも可能です。


現代の刑事法においては、このように、

何重ものチェック(再検討)の機会が

設けられており、ジャン・バルジャンのように

不当に収監される被害者はいない(はず)です。

今から200年前のフランスには、

現代のような慎重な刑事手続というものが

まだ確立していなかったのです。

現代のような慎重な刑事手続の基礎を作ったのは、

ドイツ人です。

ドイツ人は、物事を体系的に作り上げるのが

得意なんです。法律を作るのが上手なんです。

そして、それを更に純化していったのは、

イギリス人です。

イギリス人は、正義や公正を好みます。

N・Sさんは、現代に生まれて良かったですねぇ~(笑)?


刑期を終えて釈放されたジャン・バルジャンは、

カトリック教会の中に忍び込んで銀食器を盗みます。

が、あの素晴らしい神父さんが、彼を放免させます。

「果たしてあの銀食器は、

我々のモノだったのだろうか?」と言って、

さらに銀の燭台も彼に上げてしまう。

これは、”右の頬を打たれたら左の頬もさし出す”

というキリスト教の精神です。


教会に高価な銀製品なんて必要ないはずです。

庶民たちからお布施として得たお金で

購入したものです。

もともと庶民たちのもののはずです。

”迷える羊”を助け出すために、

その銀の食器や燭台を譲ることは、

むしろ神の意志にかなうはずです。

そういう立派な神父さんって、

現代には、少ないでしょうね(笑)?


◎ 更正教育プログラム


釈放されたジャン・バルジャンが

再び犯罪(窃盗)をやってしまったのは、

囚人を更正するための教育プログラム(制度)

がまだなかったからです。

あの立派な神父さんが、そのお手本を

見せてくれたわけで、

その後、刑務所に収監中の囚人には、

刑期終了後にまっとうな生活を送れるための

更正プログラムが考案されました。


『レ・ミゼラブル』の内容は、このように

後世の刑事手続法に関して

大きな影響を与えていくことになるのです。


ジャン・バルジャンは、

神父さんの「更正しなさい」という言葉に反して、

やっぱりまた犯罪を犯してしまいます。

子供のお小遣いを取り上げたのです。

これは恐喝罪ですね・・・。

被害額が小さいし、暴力はやっていないので、

やはり微罪です。

とはいえ、再犯(さいはん)ですから、

現代でもし似たようなコトがあったら、

一応裁判をして、2年くらいの窃盗罪の刑を課しつつ、

執行猶予とともに保護観察処分にするでしょう。


200年前のフランスの刑事手続には、

そういう配慮がなかったです。

むしろ「無垢な子供のお金を盗んだ重罪人だ」

ということで、ジャベール警部が

ジャン・バルジャンを追い続けることになります。


◎ 更正と更生と公正と厚生


いずれも「こうせい」と読みますが、

意味がちょっと違うので注意が必要です。

よく新聞やテレビのニュース番組とかで、

間違って使われております(笑)。


犯罪者をまっとうな人間にしていくのが

「更正」です。刑事政策学の世界では、

この「更正」という単語が使われます。


「更生」は、たとえば会社を「更生」するような

場合に使います。


「公正」というのはもちろん「正しいこと」

ですが、「一般論として正しいこと」

という意味です。公正は、どちらかというと

政治の世界で使わることが多い用語です。


「厚生」というのは、

社会福祉方面の世界で使われる用語で、

たとえば、日本の厚生労働省の「厚生」です。


◎ 第1話の要約

①ジャンバルジャンの釈放とミリエル司教との出会い

②ワーテルローの戦場でのテナルディエの悪行

③お針子ファンティーヌの恋と出産




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